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【用語解説】「リビングウィル」と「アドバンスディレクティブ」

こんにちは。&for usのがくです。
今回は「リビングウィル」と「アドバンスディレクティブ」という言葉と、それぞれの概念についてご説明します。

リビングウィルとは?

リビングウィルとは、簡単に言うならば生前の遺書のようなものです。英語の「living」は生きている、「will」は遺書、もしくは意思を意味し、平たく言えば“してほしいこと”を指します。
つまり「生きているうちにしてほしいこと」という意味になり、それが医療現場において延命治療をして欲しいか、して欲しくないかなどを示す言葉になりました。

医療リビングウィルを最初に制度化したのはアメリカで、「カレン・アン・クィンラン事件」(注1)と呼ばれる、当時アメリカを震撼させた事件がきっかけで制度化されるようになりました。自己決定(self-determination)や、自律性(autonomy)ということが重んじられるようになってきた時代背景とも相まって、自分たちの命の終わりを自分たちで考えて決めるという尊厳死や、安楽死、インフォームド・コンセント(注2)という概念が生まれるようになったのです。

アドバンスディレクティブとは?

アドバンスディレクティブとは、日本語でそのまま「事前指示」と表すこともありますが、医療の文脈では「自らが判断能力を失ったときに、自分に行われる治療やケアの意向を示す意思表示のこと」という意味になります。

リビングウィルとあまり変わらないように思われますが、明確に異なる部分があります。それは、「意思決定をするときの代理人に指定があるかないか」です。アドバンスディレクティブの中にリビングウィルは内包されますが、アドバンスディレクティブはリビングウィルに加えて代理人の指定が加わるということです。
しかし、この定義も実は曖昧なもので、元もとリビングウィルもアドバンスディレクティブも欧米から輸入してきた概念なのですが、アメリカ国内でも州によりそれぞれリビングウィルとアドバンスディレクティブを異なった解釈をしているケースがあり、日本でも時折混同して使われる場合も。言葉自体が大事なのではなく、きちんと意味を理解することが大切です。

ひとつ注意してほしいのは、リビングウィル・アドバンスディレクティブのどちらも書き方に指定があったり法的拘束力があるものではないため、仮にそのようなシチュエーションになったとしても、必ずしも意思表示をした通りにはならない可能性があるということです。また、意思決定といっても人の考えは変わっていくものなので、適用が難しいことや、全ての医療行為を事前に予測することは出来ないこと、いざ必要な時に作成していたリビングウィルやアドバンスディレクティブが見つからないときがあること、本人と代理人の意見が食い違うことなどの問題点も指摘されています。
しかし、事前にどういった意思を持っているのかを家族や周りの人が知っていれば、万が一のときにも慌てずに済みます。現場では原則として厚生労働省が作っている「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に従って取り扱われますが、そこでは本人の意思を最大限尊重する旨が記されています。

現在では、リビングウィルもしくはアドバンスディレクティブの名前で、記入するフォーマットを作成している自治体も多くあります。さらに、現在厚生労働省ではリビングウィルやアドバンスディレクティブのさらなる進化形として「アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning: ACP)」というものを、「人生会議」と名付けてPRを行なっています。
みなさんもこれを機に、ご自身や周りの大切な人と一緒にどうしたいかを考えてみたり、リビングウィルやアドバンスディレクティブを書いてみてはいかがでしょうか?

 

参考記事:【用語解説】「ACP/アドバンス・ケア・プランニング」

[注]
1)1975年4月に当時21歳だったカレンさんが、人工呼吸器等による生命維持治療を受け、それを外せば生存は困難であるという診断をされました。カレンさんの父親が、カレンさんの生命の尊厳のために治療を終了することを願い出ましたが主治医に断られてしまったため、裁判所に申し立てをしました。世界で初めて生命維持治療を終了する権利を求めたケースでしたが、結果的に裁判所は生命維持治療を終える権利を認め、この判例はアメリカだけでなく世界に大きな影響をもたらしました。
2) インフォームド・コンセントとは、医療行為を受ける前に医師や看護師から十分な説明を受け、内容について十分納得した上で、その医療行為に患者が同意することを指します。

参考文献
会田薫子 2017;「意思決定を支援する―共同決定とACP」『医療・介護のための死生学入門』,清水哲郎・会田薫子編,東京大学出版会
厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka/0000197701.pdf

記事

市川岳

市川岳

アンドフォーアス株式会社

国際基督教大学教養学部アーツサイエンス学科哲学専攻卒業後、葬儀社(むすびす(株)旧:アーバンフューネスコーポレーション)へ入社。エンディングプランナーとして、年間約200家族との打合せ・葬儀を執り行うとともに、死生学カフェや死の体験旅行など様々なイベント企画を通じて「死へのタブー視」と向き合っている。 現在は上智大学大学院実践宗教学研究科死生学専攻の博士課程前期1年目で、死とテクノロジーが合わさった「デステック」における倫理的問題のアセスメントを中心に研究を進めている。

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