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喪失からの悲嘆を和らげるために。 国内でも徐々に広がりを見せる「グリーフケア」/前編
悲嘆を和らげるための大切な取り組み
人は悲しみに包まれたとき、その悲しみを受け止めて向き合いながらも自分自身を癒し、徐々にいつもの生活へと戻っていくものです。しかし、大切な人がこの世から去ってしまったときの悲しみは大きく、誰もが喪失感からくる悲嘆と対峙することになります。喪失感がもたらす悲嘆は、第三者には計り知ることができず、本人も自分自身をなかなか癒すことができずに、ときには大きなストレスから健康を害してしまう場合もあります。
そうした悲嘆を一日も早く癒し、心身ともに健康な日常を取り戻してもらうためのサポートが「グリーフケア」です。
医療や介護の現場を中心に、国内でもこのケアが取り入れられつつあるそうですが、具体的にはどのような取り組みが行われているのでしょうか?
今回、この「グリーフケア」を取り入れている施設、社会福祉法人蓬莱会「特別養護老人ホームケアプラザさがみはら」で施設長を務める大塚 小百合さんにインタビューを実施。施設で取り入れたきっかけなどについてお話をうかがいました。
「『グリーフケア』とは、心にグリーフ(深い悲しみ)を抱えている方に対して寄り添い、悲しみから一日も早く立ち直って前に進むことを支援する取り組みのことです。近年では医療や介護の現場に携わる専門職に向けて、『アドバンス・ケア・プランニング(ACP)』とともに、この『グリーフケア』に関する研修や講座の機会も多く設けられており、一部の大学などではグリーフケアの民間認定資格が登場するなどして注目されています」
参考記事:【用語解説】「ACP/アドバンス・ケア・プランニング」
現在は病院や介護施設などでアドバンス・ケア・プランニング(ACP)とともに積極的に取り入れられるようになってきたというグリーフケアですが、大塚さんの施設で取り入れたきっかけをうかがったところ、自身が“遺族”という当事者としてグリーフケアを施してもらったことで救われたという体験がきっかけなのだといいます。
当事者として実感した、悲嘆を緩和することの重要性
「私たちの施設で取り入れはじめたキッカケには、実は私個人の“母親の死”という経験が大きく関係しています。10年ほど前に母をガンで亡くしたときに、『自信を取り巻く当たり前だった世界が崩壊するほどの恐怖とショックを痛感しました。母が亡くなる前、いずれは親も高齢者になり、介護などを経て亡くなるものだと当たり前のように思っていたのですが、高齢者になる前に青天の霹靂のようにこの世を去ってしまったわけですから。母の場合は病気の進行が早く、在宅介護などのケアチームと積極的に関わる機会も持たずしてあっという間に病状が悪化し、考える間もなく病院で亡くなってしまいました。その当時を思い返すと、自身はもちろん、母自身が大きなショックを受けている状況のなかで、主治医の先生の関わりが心の支えになってくれていた状況でした。いま思えば、主治医の先生が私たちにしてくれたことはグリーフケアそのものでした」
主治医の先生は、とにかく話をよく聞いてくれたという大塚さん。お母さんは入院生活を送るなかで、「あのときの選択は良くなかったのでは?」や、「以前の治療は最善だったのだろうか?」といった不安や後悔も抱えており、家族もそうしたお母さんの抱えている悲嘆を受け止めきれずにいたと振り返ります。
「私自身も現在の事業を立ち上げる最中で多忙を極めており、ほかの家族も仕事をしていたため母の気持ちにじっくりと腰を据えて寄り添うことができない状況だったんです。そんなときに母に寄り添って気持ちを受け止めて癒してくれていたのは、主治医の先生でした。回診に来られたときや、ふと病室に立ち寄った際にも、母の抱える悲嘆に対して時間をかけて向き合ってくれて、お忙しいにも関わらず長いときには2時間もの間、話を聞いてくれたこともありました。話を聞いて、受け止めて、肯定をして、背中を支えてあげる。ただそれだけのことかもしれませんが、今思い返せばそれも立派なグリーフケアだったのだと思います」
悲嘆をアウトプットして、後悔の念を受け止めつつも背中を支えてくれる先生の行為に、亡くなったお母さんも『すごく救われた』と話していたと、大塚さん。当時の主治医の先生の取り組みは、ご家族にとっても大きな救いの手であったことは確かだといいます。そうした経験を機に、自身が施設長を務める特別養護老人ホームでもグリーフケアを採用。「看取りケア」の一環としてアドバンス・ケア・プランニング(ACP)とともに取り入れながら、現在は講演会などを通じてグリーフケアの説明や啓蒙にも尽力しています。
TEXT:中澤範龍