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特別養護老人ホームの施設長に聞いた、「看取り」との向き合い方と取り巻く実情/前編

「看取り」において、最も重視されるもの

みなさんはいずれ訪れる自身の“最期”について考えたことはありますか? やがて歳を取り、介護施設などのお世話になりながら、家族に看取られて眠るように穏やかにそのときを迎えることは、ある意味で理想的な最期の迎え方かもしれません。

そもそも「看取り」とは、人生の最終段階において過度な延命治療を行わず、自然な経過に任せた先にある終え方のこと。特別養護老人ホームでの看取りは国も推奨しているなか、国内のすべての施設が対応している訳ではなく、そもそも看取りに対する認識や向き合い方が広まっていない実情があるようです。

今回はこの「看取り」をテーマに、社会福祉法人蓬莱会「特別養護老人ホームケアプラザさがみはら」の施設長・大塚 小百合さんにインタビュー。「看取りケア」への注力をはじめ、啓蒙活動にも尽力する大塚さんに、看取りとの向き合い方と、それを取り巻く実情についてもお話をうかがいました。

「私たちの施設では入居された方が施設で最期を迎える、いわゆる看取りケアに注力をしていますが、決して『看取りはいいですよ』と推奨している訳ではなく、看取りに対しても、延命のため医療にかかることに対しても、どちらが正しいとも思っていません。どちらを選ぶかは“ご本人の価値観”ですから。住み慣れた場所で穏やかに終焉を迎えたいのであれば看取りや在宅での最期を選べばいいですし、1分1秒でも長生きをしたい方には医療の力を借りる選択をすればいいと考えています」

あくまで「施設ではご本人にとって、最善の選択と理想を叶えるためのお手伝いをしているだけ」と語る大塚さん。本人の価値観とは、具体的にはどのようなことなのでしょうか。

「第一にご本人の意向を重視するとともに、私たちが大切にしているのは『その選択(最期の迎え方)が、ご本人らしいかどうか』を、入居される方のご家族の方とも一緒に考えることです。家族の方に対して看取りケアについてご説明する際、最期を迎える際の選択を考えるときにいちばん大事なのは“ご本人個人の価値観”ですとお伝えしているのですが、家族でもそうした価値観を日頃からすべて理解しておくことはなかなか難しいですし、気がつけば寿命を長くするということにばかり焦点が行きがちなんですね。もちろん寿命を長らえたいという考え方も間違ってはいませんが、その考えは、はたして施設に入る本人の価値観なのでしょうか? というところに立ち返って考えていただくことが大切だと考え、日頃からそうした視点でのコミュニケーションに尽力しています」

終焉を否定しないこともまた、本人の意思の尊重

また、施設に入居している方のなかには何気ない日常会話のなかで「1日も早く最期を迎えたい」なんて言葉を口にする方も。介護職員の方も思わず「そんなこと言っちゃいけませんよ」と返してしまう場面があるそうですが、大塚さんいわく個人の価値観を重視するという観点では、それは正解ではないとも。

「ご本人の価値観でそうした考えを持っているのであれば、私たちも肯定をすることはしないまでも、否定もしないようにしています。その方の考えを尊重して接するべきだとの考えから、施設のスタッフには“ありのままを受け止めるように”と伝えるようにしています。ただ、ご本人のそうした言葉から垣間見えるものは何なんだろうかというのを、ご家族や私たち施設のケアスタッフは探っていかなければなりません。ご本人に話をして聞き出せればベストですが、終末期のお年寄りにとってそうしたコミュニケーションは難しい場合が多く、認知症などの症状があればなおさらです。そうした意思疎通ができる方は限られることもあり、過去の生き様や価値観を知るご家族の方とのコミュニケーションこそが、その方の言葉や思いの裏側というものを知るためのカギとなるのです」

そうした「本人らしさを知る」ための手がかりをひとつでも増やすために、大塚さんの施設では、入居時に家族の方とともに入居者の「ライフヒストリー」を作成。ライフストーリーを作成するプロセスを通じて、入居者本人にとって何に価値を見出しているのか、という視点を持つことが、看取りケアにおいて大切なのだといいます。

「一緒に旅行をして思い出に残っている場所はどこですか? 仲のいい友人は誰ですか? 好きな色や好きな食べ物は? どこで生まれて、どういった仕事をして来ましたか? 家族構成は? ……親についてのライフヒストリーを書いてみてと言われても、意外と書けなかったりもするんですよね。もちろん私もすべてを書くことはできません。ですから、こうした情報はご本人が元気でコミュニケーションが取れるうちに記録しておくほど情報の精度は高まりますし、いわゆるエンディングノートや『&for us』のようなアプリに早い段階で記録しておくこともまた、ご本人にとって心残りの少ない最期を迎えてもらうためにも大切な取り組みです。いざ意思疎通ができなくなったときに想いを伝えることのできるツールというのは、私はとても大切だと思います」

 

本企画の後編記事はこちら 

 

TEXT:中澤範龍

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大塚 小百合

大塚 小百合

大学を卒業後、市役所福祉職や社会福祉協議会、急性期病院のMSW(医療ソーシャルワーカー)、社会福祉法人蓬莱会新規事業準備室長を経て、社会福祉法人蓬莱会「特別養護老人ホームケアプラザさがみはら」の施設長に就任。 現在は「相模原市高齢者福祉施設協議会」副会長、「相模原市在宅医療・介護連携推進会議」副会長も務める。 レギュラーを務めるYouTubeチャンネル「ゆるっとかいご」では、介護家族を応援する動画コンテンツも配信中。

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