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【用語解説】老年学

こんにちは。&for usのがくです。
みなさんは「老年学」という言葉を知っていますか?
現在、日本は超高齢化社会へと突入しています。人生100年時代といわれる現代でも、いずれ人は老い、そして最期を迎えます。
そんな当たり前のことを学術的にとらえたのが「老年学」なのですが、本記事では、もう少し詳しくご紹介していきたいと思います。

老年学とは

そもそも老年学とは、英語のジェロントロジー(Gerontology)の邦訳です。ギリシャ語で老人、高齢者(注1)という意味を表す「geron」、「gerontos」と、理性、学問を表す「logos」が合わさって出来た言葉です。高齢者を研究する学問ということで、エイジング・加齢に関すること全般を扱います。いわゆる「学際的」な学問と呼ばれ、色々な立場、角度から研究が行われています。代表的なものとして、老年医学(注2)、基礎老化学、老年看護学、教育老年学、心理老年学、社会老年学などがあります。
なぜこんな学問があるのでしょうか?そもそも、いつから人は「老い」るのでしょうか?実は、日々当たり前のように使っている「老い」「老化」という言葉は、最近になって少しずつそのメカニズムが分かってきた新しい分野で、まだまだ分からない部分も多いのです(注3)。そんな中、発達心理学(注4)という人間の年齢とともに変化する心理的な特徴を分析する学問の中で、老年期という概念が生まれました。医学の進歩により、平均寿命も少しずつ伸び、段々と長さだけではなくクオリティ・オブ・ライフ(Quality of Life: QOL)が大事にされてくるようになり、「どのように老年期を充実させるか」ということが注目されるようになりました。1903年に免疫学者のイリヤ・メチニコフ博士が長寿に関する研究をジェロントロジーと名付け、1930年代以降は主にアメリカを中心に老年学の研究が進みました。今でもアメリカでは約250の大学や研究機関で老年学の研究が進められています。日本では1960年頃から、日本老年学会を中心に研究が行われてきましたが、一般的に世間へはあまり浸透していないのが現状だと思います。

老年学の重要概念

では、老年学ではどういった概念を扱うのでしょうか。いくつか例を挙げようと思います。

エイジング(aging)
老化と似た概念に、エイジング(加齢)があります。よく美容の話でアンチエイジングなどと言いますが、要するに加齢を阻止するもののことですね。老化は成熟してから老いていく過程を指しますが、エイジングは生後から年を重ねていくことを言います(注5)。
エイジングには以下の4つの特徴があると言われています。
1)普遍性: 生命あるものすべてに起こるという特徴
2)固有性: 生まれること、成長すること、そして死にゆくことと同様に、すべての生命に元々備わっているという特徴
3)進行性: 突発的ではなく、時間がたつにつれて徐々に現れてくるという特徴
4)有害性: 元々できることが出来なくなるという機能低下があるという特徴

老性自覚(主観的老い)
自分自身の「老い」を自覚する意識のことを、「老性自覚」または「主観的老い」と言います。高齢者が自分自身の「老い」をどのように捉えているのか、いつ頃から「年を取ったな」と感じるのかについてなど、老若の基準が何によってもたらされるのかといったテーマを研究する人もいます。

サクセスフル・エイジング(successful aging)
直訳すると「成功的な老い」とでも訳せるこの語ですが、明確な日本語の定義は難しいとされています。噛み砕いて言うならば、「理想的な年の取り方」という意味が妥当でしょう。これはアメリカから広がった言葉ですが、この概念が生まれる前は年を取ること=悪いこと、という風に捉えられていました。しかし、人は生涯にわたって発達しつづけることができ、老化は衰退ではなく成熟への過程である、といったエイジングに対する考え方が少しずつ浸透するにつれて、老いを悪いものではないと捉え直す動きが生まれ、その中で語られるようになった言葉です。

老年的超越性(gerotranscendence)
高齢になると到達できる可能性があるとされる、主観的な幸福感のことを指します。いわゆる悟りの境地に近しいもので、禅の知見などを元にスウェーデンの学者であるトーンスタムが理論的に構築しました。心理学的には、老化に伴う各種能力の衰えを否定的に捉えず、現状を肯定し、多幸感を抱くという一種の適応という風に考える研究者もいます。

おわりに

普段当たり前のように「老けたなあ」などという言葉を耳にしますが、実はこのように様々な研究が行われています。日本では、儒教やその他の文化の影響もあり、他の国々より高齢者を敬う傾向にあります。しかしそれらの背景には、様々な心理学的、社会学的な要素が存在しているようです。これからの人生100年時代、この記事をきっかけにご自身や周りの人と「老い」について考えてもらえるようになれば幸いです。


1)何歳からを高齢者とするかは様々な議論がありますが、ここではWHOの定める65歳以上を高齢者とします。
2)老年医学を老年学の中に入れるのではなく、分けるべきであるという考え方もありますが、ここでは老年学の一分野として老年医学を扱います。
3)老化のメカニズムは、現在プログラム説、エラー説、フリーラジカル説、クロスリンキング説、免疫異常説などがあり、完全に解明されてはいません。
4) エリクソンやピアジェを代表とする、人間の発達を段階に分けてその心理を解明する学問のこと。ちなみにアイデンティティという語はエリクソンが概念化しました。
5) 老化と加齢を同じ意味として扱っている場合もありますが、ここでは分けて考えます。

参考文献
永野聡・劉慶紅・三上己紀編, 2022;『ロングライフウェルネス-ジェロントロジーの理論と実践』,論創社
堀薫夫, 2022;『教育老年学』,放送大学教育振興会
杉澤秀博・長田久雄・渡辺修一郎・中谷陽明, 2021;『老年学を学ぶ-高齢社会の学際的研究』,論創社

記事

市川岳

市川岳

アンドフォーアス株式会社

国際基督教大学教養学部アーツサイエンス学科哲学専攻卒業後、葬儀社(むすびす(株)旧:アーバンフューネスコーポレーション)へ入社。エンディングプランナーとして、年間約200家族との打合せ・葬儀を執り行うとともに、死生学カフェや死の体験旅行など様々なイベント企画を通じて「死へのタブー視」と向き合っている。 現在は上智大学大学院実践宗教学研究科死生学専攻の博士課程前期1年目で、死とテクノロジーが合わさった「デステック」における倫理的問題のアセスメントを中心に研究を進めている。

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