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【用語解説】「グリーフケア」

1.はじめに

こんにちは。&for usのがくです。
今回は、「グリーフケア」についてお話します。
(実は、私の所属している上智大学はグリーフケア研究所という専門研究機関を持っている稀有な大学で、数多くのグリーフケアの研究をしている人がいます)
なかなか大きな概念なので、全部を紹介しきれないかも知れませんが、なるべく分かりやすく解説していこうと思います。
基本的なことは知っているよ! という方は、応用編として下記の記事も参考にしてみてください。
悲しむことが許されない? 「公認されない悲嘆」

2.グリーフケアとは

「グリーフケア(grief care)」とは、簡単に言うならば深い悲しみに対するケアのことです(注1)。「グリーフ」は悲嘆という意味で、「悲嘆ケア」「遺族ケア」「ビリーブメントケア」といった用語を使うこともありますが、本記事では近年比較的一般化してきたグリーフケアに統一したいと思います。この言葉は、死別などの何かしらの喪失体験がもとになって生じた深い悲しみに対しての文脈で使用されます(注2)。例えば、お葬式をあげることはグリーフケアのひとつとして遺族の心のケアをするものであるという見方があります。また、医療機関やグリーフケア専門のカウンセラーとして資格を持っている人などが行っている専門的なケアもあります。

諸説ありますが、通常のグリーフは心理学的に半年以内に安定するとされています。しかし、精神医学の専門家である米コロンビア大学のキャサリン・シアは、6ヶ月以内に安定するグリーフは喪失体験への自然な心のプロセスであるが、6ヶ月以上にわたるグリーフはうつ病に近い病的なものとして、複雑性悲嘆(Complicated Grief)と名付けました(注3)。このような状態にならないように、喪失によるさまざまな痛み(ペイン)と向き合っていくことがグリーフケアと呼べるでしょう。

また、グリーフケアは医療従事者やカウンセラーなどの専門家だけが行うものではありません。家族・友人なども含めた、喪失経験者に接するすべての人がグリーフケアの提供者としての可能性を秘めているといえるでしょう。もちろん、それぞれの状況によって関わり方や距離の取り方などは異なってきますが、次の章では実際にグリーフケアをする上でのプロセスを見ていきましょう。

3.グリーフワーク

グリーフケアにおいて、グリーフへの適応プロセスのことを「グリーフワーク(grief work)」といいます(注4)。海外では、ジョージ・エンゲル、ウィリアム・ウォーデン、テレーズ・ランドー、ロバート・ニーメヤー、日本だとアルフォンス・デーケン、平山正実などが、それぞれ段階や取り組む課題などに分けて分析しています。
例えば、日本の死生学の第一人者であるアルフォンス・デーケンの論では、以下のような段階が主張されています。

①精神的打撃と麻痺状態
②否認
③パニック
④怒りと不当感
⑤敵意と恨み
⑥罪意識
⑦空想形成・幻想
⑧孤独感と抑うつ
⑨精神的混乱と無関心
⑩あきらめ
⑪新しい希望
⑫立ち直り

とはいえ、これはあくまでひとつの主張であり、学者によって異なることを主張していたりもします。また、喪失のありかたは人それぞれのため、プロセスから外れることもあると考えられます。こうした論はあくまで参考程度とし、理論に囚われすぎない柔軟なグリーフケアが求められているのかもしれません。

4.おわりに

グリーフケアは、1960年代頃にアメリカではじまったとされる比較的新しい分野です。そのため、今後もどんどんと新しい考え方や理論が生まれてくると思います。
また、最近では「継続する絆理論」(注5)に代表されるような、悲嘆は乗り越えるものではなく、喪失とともに生きていくことだという考え方も出てきています。
大切なことは、こうしたことを学び、活かそうとする姿勢です。
この記事をきっかけに、グリーフケアについて興味を持ってもらい、一人ひとりがグリーフケアの提供者になりうるということを認識し、万が一周りに苦しんでいる人がいたら手を差し伸べてあげていただけたら幸いです。

[注]
1)本来はケア学と呼ばれることもあるほど、「ケア」という語だけでも説明が必要な概念ではありますが、本記事では一般的に使われている意味としてのケアを扱います。
2)上智大学グリーフケア研究所の髙木慶子シスターは、著書『悲しんでいい』のなかで悲嘆の原因になる喪失を、①愛する人の喪失、②所有物の喪失、③環境の喪失、④役割の喪失、⑤自尊心の喪失、⑥身体的損失、⑦社会生活における安全・安心の喪失の7つに分類し、死別だけではないグリーフの存在を指摘しました。
3)キャサリン・シアはコロンビア大学のThe Center for Complicated Grief(複雑性悲嘆センター)のセンター長を務めています。英語サイトですが、詳しく知りたい方はリンクより。https://prolongedgrief.columbia.edu/professionals/complicated-grief-professionals/overview/
4)グリーフサポートと言ったり、喪の作業としてモーニングワーク(mourning work)と言ったりもします。
5) 継続する絆(continuing bonds)理論とは、デニス・クラスによる新しい悲嘆への向き合い方で、喪失との関係を断ち切るのではなく、むしろ関係を再構築することこそが重要なのではないかという考え方のことです。

参考文献
Worden, William, 2008;Grief Counseling and Grief therapy: A handbook for the Mental Health Practitioner,Springer Pub Co.
坂口幸弘 2014;「グリーフケア」『死生学入門』,石丸昌彦編,放送大学教育振興会
島薗進・鎌田東二・佐久間庸和, 2019;『グリーフケアの時代―「喪失の悲しみ」に寄り添う』,弘文堂
ジークムント・フロイト「喪とメランコリー」、『フロイト著作集』六、人文書院、1970年
髙木慶子編, 2012;『グリーフケア入門―悲嘆のさなかにある人を支える』,勁草書房
髙橋聡美編, 2012;『グリーフケアー死別による悲嘆の援助』,メヂカルフレンド社
竹之内裕文・浅原聡子編, 2016;『喪失とともに生きるー対話する死生学』,ポラーノ出版
髙木慶子, 2011;『悲しんでいい』,NHK出版新書

記事

市川岳

市川岳

アンドフォーアス株式会社

国際基督教大学教養学部アーツサイエンス学科哲学専攻卒業後、葬儀社(むすびす(株)旧:アーバンフューネスコーポレーション)へ入社。エンディングプランナーとして、年間約200家族との打合せ・葬儀を執り行うとともに、死生学カフェや死の体験旅行など様々なイベント企画を通じて「死へのタブー視」と向き合っている。 現在は上智大学大学院実践宗教学研究科死生学専攻の博士課程前期1年目で、死とテクノロジーが合わさった「デステック」における倫理的問題のアセスメントを中心に研究を進めている。

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