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【用語解説】フレイル
こんにちは。&for usのがくです。
みなさんは「フレイル」という言葉を知っていますか?
ここでは、超高齢化社会のなかで、より多くの人びとが健康に生きるために注目されているフレイルという言葉を解説します。
フレイルとは
フレイルとは、英語の「Frailty」 の日本語訳です。以前は「虚弱」「老衰」「衰弱」「脆弱」などという訳語が使われていましたが、どの訳語も年齢を重ねるにつれて弱っていき、戻ってこられない(不可逆的な)イメージがありました。
しかし「Frailty」という英語の言葉には、適切な予防や対処によって再び健康に戻れるという(可逆的な)意味が含まれています。よって、2014年からフレイルという言葉を使う方針が立てられ、以降はフレイルという語が使われるようになりました(注1)。
では、このフレイルはどのように定義することができるのでしょうか? 日本老年医学会が2014年に発表したなかでは以下のように定義されています。
「高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、生活機能障害、要介護状態、死亡などの転帰に陥りやすい状態で、筋力の低下により動作の俊敏性が失われて転倒しやすくなるような身体的問題のみならず、認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題、独居や経済的困窮などの社会的問題を含む概念」
日本老年医学会(2014)
少し難しいですが、言い換えると「年齢を重ねるにつれて体力や筋力、さらには活力(やる気)が低下し、病気ではないけれど、介護が必要になりやすくなっている状態」、つまり健康と要介護の中間の状態といえるでしょう。
フレイルに注目が集まる理由
なぜ、このフレイルという言葉に注目が集まっているのでしょうか? その理由のひとつは、エイジズムという考え方と関連しています。
エイジズムとは年齢に対する差別のこと。レイシズムが人種に対する差別、セクシズムが性別に対する差別と考えるとわかりやすいかもしれません。さまざまな文脈で使われるエイジズムですが、高齢者への医療・介護という文脈においても重要です。というのも、高齢だからという理由だけで医療行為を行う/行わないことは差別に抵触する可能性があるからです。
なぜ差別に抵触する可能性があるのでしょうか? 心肺蘇生法(CPR)を例に考えてみましょう。従来では、いかなる年齢に関わらず心臓が停止している人には心肺蘇生法(CPR)を行うべきとされています。これは当たり前のように聞こえるかもしれません。では、90歳でピンピンしていたおばあちゃんを想像してみてください。その人が倒れて心肺停止状態にあるとしましょう。以前からピンピンコロリで最期を迎えたいと言っており、このまま息を引き取れば老衰として穏やかな最期を迎えられるという状態ですら、心肺蘇生法(CPR)を行わなくてはいけません。病院に運ばれて一命を取り留めたとしても、残されたのは肋骨が折れ、管につながれて元気のかけらもない姿かもしれません。
このように、老衰として息を引き取ったほうがQOL(クオリティ・オブ・ライフ)が高い可能性がある人に対して、「高齢者だから」「〇〇歳を超えたから」と、年齢を基準で考えることは個人差があるため難しく、またエイジズムとして差別になってしまいます。そこで注目されているのがフレイルというわけです。フレイルの状態になった高齢者を早期に発見し、適切な介入をすることが大事とされています。
フレイルの3つの側面と判断基準
フレイルには大きく分けて3つの側面があります。
ひとつめは「身体的(フィジカル)フレイル」です。これは、筋肉量の減少(サルコペニア)により活動量が低下するといった状態を指します。ふたつめは「精神/認知(メンタル/コグニティブ)フレイル」です。これは記憶力の低下や、うつの状態を指します。そして最後は「社会的(ソーシャル)フレイル」です。これは周囲のサポートがなく孤立した状態を指します。これらの3つの側面は互いに関連しあっているため、どれかひとつがフレイル状態になるというわけではなく、総合的に判断されることが多いです。
フレイルは適切に介入することで元の健康な状態へ戻る可能性ももちろんありますが、逆に進行することもあります。そうした際に、フレイルかどうかを判断する指標というのはいくつかあります。そのひとつとして有名なものが、アメリカの老年医学者であるリンダ・フリードという人が作ったCHS基準(フリードの基準)というものです。その基準と調査方法は以下の通りです。
①体重減少:問診「この2年間で体重が5%以上減りましたか?」
②筋力低下:計測「聞き手の最大握力が男性で26kg未満、女性で17kg未満」
③疲労感:問診「自分は活力が満ち溢れていると感じますか?」
④歩行速度の低下:計測「6.5mの道を歩いたときの中間での歩行速度が1.0m/s未満」
⑤身体活動の低下:問診「軽い運動・体操をしていますか?」
以上の5項目のうち3つ以上当てはまる人はフレイルと判定され、1~2つ当てはまる人はプレフレイル(フレイルの前段階のこと)と判定されます。
しかし、男女比や地域差、教育水準、世帯収入などの社会的要因や経済的要因が加味されていないと批判されることもあり、まだまだこのフレイルの基準を明確にすることは、これからの課題であるとされています。
おわりに
以上、フレイルについての概要を見てきました。大切なことは、まだフレイルになっていない高齢者をいかにフレイル状態にさせないかといった介護予防の観点や、フレイルになった高齢者に対しての侵襲性の高い医療行為の是非を問うような観点でしょう。また、緩和ケアを始めるタイミングとしても使われることが考えられるので、エンド・オブ・ライフケアの一環としても重要な概念になるでしょう。比較的新しい概念であるため、さらなる研究に注目が集まりそうです。
[注]
1) 語感の関係か、英語の名詞形「Frailty」をそのままカタカナにせず、形容詞「Frail」を名詞としてカタカナ語に取り入れています。
参考文献
会田薫子, 2017;「意思決定を支援する―共同決定とACP」清水哲郎・会田薫子編『医療・介護のための死生学入門』東京大学出版会.
荒井秀典 2014;「フレイルの意義」『日本老年医学会雑誌』51(6), 日本老年医学会.
岩崎房子 2017;「高齢者とフレイル―超高齢社会におけるフレイルケアに関する一考察」『福祉社会学部論集』36(2), 鹿児島国際大学福祉社会学部.
佐藤眞一・髙山緑・増本康平, 2014;『老いのこころ―加齢と成熟の発達心理学』,有斐閣.
杉澤秀博・長田久雄・渡辺修一郎・中谷陽明, 2021;『老年学を学ぶ―高齢社会の学際的研究』,論創社.
新田國夫・飯島勝矢・戸原玄・矢澤正人, 2016;『老いることの意味を問い直す―フレイルに立ち向かう』クリエイツかもがわ.
日本老年医学会, 2014;「フレイルに関する日本老年医学会からのステートメント」(https://jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20140513_01_01.pdf)