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本人の意思が主体。将来の変化に向けた取り組み 「ACP」を知っていますか?/前編
目下、国を挙げての取り組みが進む「ACP」とは?
突然ですがみなさんは、自身や家族にもしものことがあったとき、人生の最終段階においてどのような終焉を迎えたいか、どのような医療を受けたいかなどを考えたり、話し合ったりしたことはありますか?私たち「&for us」のアプリやエンディングノートを通じて日頃から考えを記していれば少しは安心できるかもしれませんが、そのもしもがいつ訪れるかは誰にもわかりません。
そんな“もしも”に備えて、医療や介護の現場では、将来の医療及びケアについて、本人の考えを主体とした家族や医療・ケアチームによる話し合いを通じて、「本人による意思決定」を支援する「ACP」というプロセスが取り入れられています。
今回はこの「ACP」について、社会福祉法人蓬莱会「特別養護老人ホームケアプラザさがみはら」の施設長を務める大塚 小百合さんに、プロセスの概要や施設での取り組みについてお話をうかがいました。
「『ACP』とは、“Advance Care Planning/アドバンス・ケア・プランニング”の略で、将来の変化に備えて医療行為やケアをどうしたいかという考えについて、本人が元気なうちから家族や関わる医療介護従事者と繰り返し話し合い、共有し、意思決定してゆくプロセスのことです。例えば、家族は病院にいてほしいけれど、本人はそれを望まない。本人がどのように最期を迎えたいかという思いと、家族の思いや考えが乖離してしまっている場面が現場では多くあります。本人の思いをちゃんと家族に伝えておかなければ、いずれは意思疎通ができなくなるなどして、結果的に家族の思いや考えばかりが優先されがち。本人と家族、双方が納得して最期を迎えるためには、しっかりとした話し合いが不可欠なのです」
参考記事:【用語解説】「ACP/アドバンス・ケア・プランニング」
本人と家族の想いのミスマッチを無くしていくためにも「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」は欠かせないものであり、国内でもそうした動きは活発になっていると話す大塚さん。厚生労働省は現在「人生会議」という名称で「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」を推進しており、大塚さんが参画している行政主導の専門職会議「在宅医療介護連携推進会議」においても、人生会議をPRするためのパンフレット制作などを進めているそうです。
「ひと昔前まで日本は高齢化社会と言われていましたが、今の日本は“超高齢社会”に突入し、世界のなかでも稀な高齢者人口の割合が多くを占める国家となりました。超高齢社会は、同時に“多死社会”でもあるわけですが、そのなかで注目すべきは日本の高齢者の約8割もの方が病院で亡くなっているということです。他の国と国際比較をしても、日本は病院で亡くなる高齢者の比率が圧倒的に多いのが実情です」
病院での終焉が当たり前となった要因って?
厚生労働省や内閣府のデータを参照すると、1950年代の調査では8割以上の方が自宅で亡くなっており、現代の調査結果とは真逆の結果が確認できます。それが現代ではなぜ、8割もの高齢者が病院で亡くなっているのでしょうか? その裏側には、日本のある制度がからむそうです。
「データを遡ると、1975年以降、病院で亡くなる方の数が自宅で亡くなる方の数を上回っているのですが、そのきっかけとなったのが1961年からはじまった『国民皆保険』です。国民皆保険が広まったことで、それまで10割負担だった医療費の負担が減り、以前よりも安易に医療を受けられるようになったことから、結果として病院で最期を迎える方も増えたとされています。本来であれば自宅で自然に亡くなっていた方も、医療にかかることで寿命を延ばしていくことが可能となり、結果として自宅で亡くなるよりも病院で亡くなることが“当たり前”になっていったのです」
これから迎える多死社会のなかで亡くなる方も増えていくわけですが、日本の団塊世代が高齢者になることを高齢化社会のピークと見なしたとき、今後も病院が亡くなる場所の受け皿になり得るかというと、病床数の限度という事実が危惧されるとも。
「仮に病床数を増やしたところで、その先には少子化社会という問題が待っています。それは高齢者施設などにおいても同様で、暗に病床数の増加を見込むことはなかなか難しく、その矛盾をどのように埋めていくのかを考えたときに、自らに希望があるのであれば介護施設や自宅など病院以外の場所で最期を迎えるということを選択できる方が増えていくことを考えなければならないのです」
TEXT:中澤範龍