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海外のエンディングビジネス紹介シリーズ③StoryFile

海外のエンディングビジネスを紹介していくシリーズコラム。

第三回は、いま話題のAI技術を使用して死者と対話をすることができる、アメリカのStoryFileというサービスについてご紹介します。

ChatGPTを皮切りに、技術の指数関数的な進歩やそれにともなう倫理的な問題点などが議論されるなど、常に話題に欠くことのないAI技術ですが、死者の再現ということに関してはどのようなサービスが展開されているのでしょうか? オフィシャルサイトを通して見ていきましょう。

HPの最初には、今にも話し出しそうな男性と「話してみよう!(LET’S TALK!)」のボタンが設置してある(HPより翻訳して転載)

StoryFileは、米・カリフォルニア州ロサンゼルスに拠点を置く2017年創業の企業。同社は人びとのストーリーを未来の世代に残していくことを目的とし、クラウドベースでコーディングのいらないプラットフォームとして、会話型ビデオ(conversational video)を開発しました。
会話型ビデオとは、いつどこで誰に対しても質問や会話をすることのできる未来を見据えStoryFileが開発した技術で、AI技術を用いて会話を返すことのできる動画のことを指します。2023年6月現在の従業員数は約30名ほどのスタートアップで、過去には950万ドル(日本円で約13.2億円、2023年6月現在)の投資も受けており、今後も成長が見込まれる企業です。

右からCEOのスティーブン・スミス氏、CVOのヒーサー・スミス氏、CFOのマシュー・エヴェリット氏(Global News Wireより転載)

現在StoryFileでは大きく2つのビジネスモデルがあります。ひとつは、「StoryFile Life(ストーリーファイル・ライフ)」と呼ばれるBtoCのサービスで、これが前述の死者をAIとして再現するもの。仕組みは以下のとおりです。

まず、残しておきたいストーリーに関しての質問を選びます。1800個以上の質問リストのなかから、トピックを選ぶことができるようになっています。万が一用意されている質問のなかに自分が残しておきたいストーリーが含まれていない場合は、自分自身で質問を用意することも可能です。

次に選んだ質問に即した回答を、動画で録画します。撮影はパソコンやタブレット、スマートフォンなどさまざまなデバイスで行うことができます。

最後にそれを共有します。家族間で共有することもできますし、SNSなどにも簡単にアップすることができるようになっているようです。

撮影する際には、上部に質問が出るため迷うこと無く回答できます(HPより転載)

注意点としては、生前に撮影をすることを前提としていることです。なので、大切な人が亡くなってからでは、このようなサービスは利用できません。これを死者が蘇ったととらえることができるのか、というのは議論があるかもしれませんが、それよりも特筆すべき特徴はAI技術を使ったインタラクティブな会話をすることができる部分といえるでしょう。

そしてもうひとつが「Conversa(カンバーサ)」と呼ばれるBtoBのSaaSシステムで、前述の会話型ビデオを誰にでも簡単に共有することのできるプラットフォームのこと。社内研修や教育現場、カスタマーサービスなどを実行する際のノウハウを動画として蓄積することが可能になり、また、そのノウハウへのアクセスが容易になるなど、幅広いシーンでの活躍が期待できます。

例えば、今まで研修の際に一方通行なビデオを使用していた企業は、Conversaを使えばその研修ビデオ自体が会話をすることができ、双方向的なやり取りの中で素早く学ぶことができるようになります。また、そうしたやり取りをアナリティクスにかけることで、どのようなポイントが頻繁に質問されるかなどをデータとして分析することができるため、研修自体の質の向上にも繋がります。

「Conversa」のダッシュボードの例(HPより転載)

料金はそれぞれ異なり、BtoCの「StoryFile Life」は、ひとつの質問ごとに1ドルの費用が加算されていきます。基本的な37個の質問は無料であったり、よく選ばれる質問を「お父さん向け」「お母さん向け」「特別な人向け」と3つに分けるパッケージでの質問の販売もしていたりします。また、プレミアムプランでは499ドル(日本円で約7万円、2023年6月現在)で全ての質問にアクセスすることができるようになります。

「StoryFile Life」のプラン(HPより転載)

一方、BtoBの「Conversa」は、サブスク型で3つのプランが用意されています。現在はフォームを送信しないと価格が見えないようになっていますが、Proは月1041.67ドル(日本円で約15万円、2023年6月現在)、Plusは月2083.33ドル(日本円で約30万円、2023年6月現在)、Premiumは月4199.67ドル(日本円で約60万円、2023年6月現在)がスタート価格となっているようです。また、企業ごとのカスタマイズも可能なようです。

「Conversa」のサブスクプラン(HPより転載)

このように見ると「StoryFile Life」と「Conversa」はそれぞれ大きく性格が異なるサービスと言えるでしょう。前者の目的は死別に苦しむグリーフを抱えた遺族へのケアが中心である一方で、後者は企業の教育やノウハウ蓄積することを目指しています。両者に共通しているのは、AI技術を使った双方向的にインタラクションできる会話型ビデオを使用している点です。

両者は性格は異なりますが、ともに世の中ではニーズがあるサービスのように思われます。特に、「StoryFile Life」は特定の人々にとってはとても強いニーズ、つまり「死者にもう一度会いたい」というニーズがあるでしょう。死者をAIで再現する技術は、未だにその是非が議論されている分野ではありますが、このような技術は今後も発展していく可能性が高いでしょう。

残念ながら、日本語での対応はまだ行われていないようですが、英語が堪能な方であれば、日本からでもアクセス可能です。みなさんは、このようなサービスを使ってみたいと思いますか?

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市川岳

市川岳

アンドフォーアス株式会社

国際基督教大学教養学部アーツサイエンス学科哲学専攻卒業後、葬儀社(むすびす(株)旧:アーバンフューネスコーポレーション)へ入社。エンディングプランナーとして、年間約200家族との打合せ・葬儀を執り行うとともに、死生学カフェや死の体験旅行など様々なイベント企画を通じて「死へのタブー視」と向き合っている。 現在は上智大学大学院実践宗教学研究科死生学専攻の博士課程前期1年目で、死とテクノロジーが合わさった「デステック」における倫理的問題のアセスメントを中心に研究を進めている。

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