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日本式片づけや清掃に次いで「生前整理」を英語圏へ。世界で注目を集める“日式”生前整理

日本国内ではすでに広く知られつつある「生前整理」。元気なうちに身の回りのことを整理しておくことは、自らはもとより、のこされた家族や愛するひとたちも安心できることから、高齢者の方のみならず、なかにはいざというときの備えとして、若いうちに身の周りについて見直すといったひとも増えています。

身の周りの物だけでなく、心と情報を整理するためにも欠かせないこの生前整理ですが、こうした考えは中国や韓国といったアジア圏、さらには北米においても“日式”の生前整理として注目を集めているそうです。

今回、その仕掛け人でもある一般社団法人生前整理普及協会で副代表理事を務める林 茂行さんに、その取り組みや狙いについて、お話を伺いました。

生前整理においては横断的な知識こそが重要。
認定資格の発行と普及に努める生前整理普及協会

生前整理普及協会は、その名のとおり生前整理の普及を目的とした組織。愛知県名古屋市を拠点に、認定講座の運営や生前整理アドバイザーと呼ばれる独自資格などの発行などを行なっています。取り組みを通じて老若男女問わず、物・心・情報を元気なうちにすっきりと整理することで、今よりもっと幸せに生きるための“あったかい生前整理”を提案しています。

「私たちは全国のカルチャースクールさんと提携し、北海道から九州まで全国に点在する講師陣のみなさんと連携することで、生前整理に興味のある方に対して広く講座を受けていただけるような体制を設けています。生前整理といっても実は求められる知識の幅がとても広く、片付けに関するスキル的なことはもちろん、相続や不動産、介護といったさまざまな事柄に対する知識が求められるケースも多くあります。ひとつの問題から複合的にいろいろな課題が発生することも少なくないため、ある程度横断的な知識を持って、個々のケースに向き合えるよう、幅広い知識を持った資格保有者の育成などにも注力しています(林さん)」

各地で生前整理のプロフェッショナル育成に努める同協会ですが、その活動は国内だけにとどまらず、これまでに台湾や中国本土、韓国などにおいても日本式の生前整理、いわゆる“日式”の生前整理の普及も行なっているそう。そのきっかけとなったのは、日本式の片づけにあったと林さんは振り返ります。

片づけや掃除の苦労は万国共通。日本式部屋の片づけや掃除の先にあった日本式生前整理という意外な需要

海外に向けた展開をするきっかけとなったのは、協会の代表・大津たまみさんの活動にあったそう。もともとお掃除やお片付けのプロである大津さんのもとに、台湾や中国の方から「日本式の片付けや日本式の掃除を学びたい」という問い合わせがあったことに起因するといいます。

海外からも注目される日本式の片付け

「入口こそは普通のお部屋のお掃除やお片付けでしたが、日本ならではのお片付けや整理術という点で、延長線上にある生前整理に対して興味を持たれたんだと思います。特に不動産価格が特に高い上海やソウルなどにおいて、生活水準の高い人びとの間で部屋をキレイに維持したいという需要も多く、そうした専門家が求められるといった背景も挙げられます。また、昨今日本で囁かれている高齢化もアジア圏で同様の問題を抱えており、ひとりで荷物が片付けられないお年寄りも増えていることから、私たちの活動は自然と海外の方からも注目を集めるようになったのだと考えられます」

世界で最も高齢化が進む日本の生前整理のノウハウはまさに世界中から注目されており、生前整理普及協会は2019年から台湾で、2021年からは中国本土でも日式の生前整理講座を開始。これまでに100人以上の海外の受講を集めるなど、徐々にその視線は熱を帯びてきていると林さんは続けます。

「台湾の場合、参加者の方の半数以上がハウスクリーニングの仕事に携わっている40歳前後の方で、残りは経営者の方や個人事業主のような方々がメイン。また、中国本土では家事代行を雇っている割合が高く、ハウスクリーニングの仕事が技術職として地位を確立していることから、日本とは違った事情で参加される方も多く見受けられます。中国では日本の洗車技術が注目されているそうですが、生前整理やお片付けにおいてもそうした日本ならではのホスピタリティや丁寧な作業・技というのも、付加価値として視線を集めているように感じられますね」

現在も開催回数を増やしながら、生前整理の資格保有者は増加の一途。日本と同様に親の介護や片づけ、核家族による家族内の意思統一の難しさが浮き彫りになるとともに、自らの家族の生前整理のためや、仕事のスキルとして生前整理のための資格を取得する方が増えているそうです。

海を越えて支持される日本の生前整理。
アジア圏に次いで、ついに北米への進出も

まさに海を超えて注目を集める生前整理普及協会の活動ですが、最近では北米向けに開発した生前整理講座も展開。基本となる初期講座は日本と同様だそうですが、宗教観の違いといった欧米独特の文化を考慮し、亡くなった方の人生の後悔を強調した内容になっているそう。講座の内容は独自の「魔法の4分類法(片づけの仕方)」から、人生を振り返る事ができる「写真の整理法」、さらには過去の自分から現在の自分、そして未来の自分へと振り返りからプランニングを行う内容などが用意されているそうです。

林氏いわく、北米に向けた活動は日本式の生前整理を普及させるだけでなく、もう一方で米国式の生前整理を日本に輸入し普及させる狙いもあるとも。そのひとつが、「エステートセール」と呼ばれる文化です。

「エステートセールは直訳すると資産販売になるのですが、米国では家主がなくなったりすると家財道具や収集していたアートなどを庭に並べてのガレージセールや、フリーマーケットの様に個人が自分で販売する文化があります。ただそれではアンティークや年代物など価値あるものの判別がつかず、安値で手放してしまうこともしばしば。そこで、物の価値に詳しくまた販売力のあるプロのエステートセラーが価値を見極めて顧客の為に販売するサービスがあり、専門会社も米国内に既に1万5,000社ぐらいあるとも言われ、合理的リサイクル方法として米国式終活サービスにおいて一大事業になっているんですね。日本では株式会社ポジティブシンキングの堀川一真氏が日本にこのエステートセールのサービスを持ち込み、全国的に徐々に広がりを見せつつあります。物=心の日本においても、先祖から受け継いでいる物や、親が大切に持っていた物など、個人が大切にしてきたものとその想いをしっかりと受け継ぎ、適正な商品価値をつけて、探している人びとのもとへ送り届けられるようなサービスの構築を進めています。また現在は、一社生前整理普及協会において、堀川氏が講師となってエステートセール専門家の育成も行っております」

生前整理をキーワードに、グローバルな観点で相乗的な学びとサービスの構築を目指す生前整理普及協会。「日本でもそうだったんですけど、海外においても死生観ってなかなか難しくて」と、続ける林さんですが、生前整理や相続、終活においては未だネガティブなイメージが抱かれているケースも少なくないと話します。

「海外でも『縁起でもない』なんて思われがちでしたが、最近ではだいぶ払拭しはじめているようにも感じられます。生前整理とか終活イコールすごく暗くてネガティブイメージが抱かれがちなんですけど、実は生前整理ってやればやるほど自分探しのマーケットなんだということを伝えてきたいですね。それは日本でエステートセールの普及をすることにおいても同様で、自分がどう生きていきたいのかを知るための棚卸しのようなものだと思っていて。家族とのあり方だったり生き方だったり、人生の最後の場面で本当に後悔しない生き方って何なのか。今があって残りの人生どういうふうに生きていこうかっていう考えを持つのに、年齢は関係ありません。80歳ではじめても20歳ではじめてもいい。自分の人生っていうのをどれだけ真剣にプロデュースして、自分の人生をどうやって生きていくかっていうことが、キャリアプランよりも大切な“人生プラン”になりますから。そういう考え方が、本来の生前整理になってくださったらなと思っています。生前整理やエステートセールについてまずは知っていただくということを通じて、その大切さに気づいていただくことができれば幸いです」

TEXT:中澤範龍

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林 茂行

林 茂行

一般社団法人生前整理普及協会 副代表理事 大手人材派遣会社、環境コンサルティング会社を経て、2014年に一般社団法人生前整理普及協会へ入社。生前整理普及協会の協会員(指導員)向けのサポートや営業統括、海外講師などを担当している。生前整理は亡くなる準備でも決して物を捨てるだけではなく、自分自身と向き合ってより良く生きているための方法として、テレビ・雑誌・講演会などを通じて伝えている。

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