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樹木葬のプロに聞いた、樹木葬のトレンド
徐々に広がりをみせる「樹木葬」。ここ最近ではTVなどのメディアで取り上げられる機会も増えており、耳にしたことがあるという方も多いのではないでしょうか。
しかしなぜ、この樹木葬が注目されるようになったのでしょうか?そもそも樹木葬とはどういったものなのでしょうか?今回はその全貌を知るべく、樹木葬のエキスパートである株式会社アンカレッジ顧問の堀内さんにお話を聞きました。
ーーはじめに、樹木葬がどういったものなのか教えてください。
堀内さん:樹木葬とは、木や草花など自然に囲まれて眠るお墓のスタイルです。「樹木葬」という名前なのでお葬式の一種かと思う方もいますが、あくまでお墓のあり方のひとつで、岩手県の知勝院というお寺が日本で最初にはじめたと言われています。
家族や個人のご遺骨を個別に納骨するタイプや、ひとつの区画に多くの方のご遺骨を納骨するタイプ、さらにはシンボルツリーの種類が多様化していたりと、今ではさまざまなタイプが存在します。
樹木葬の需要は年々増えており、終活関連サービス事業を展開する株式会社鎌倉新書のデータによると、2020年の時点で昔からある一般的なお墓よりも樹木葬の数が上回っており、2022年の調査ではお墓購入者のうち41.5%が樹木葬を選択しています。2018年の調査時点で24.9%だったことと比較すると、この数年間でも大きく増えており、これからも増えていくことが予想されます。
ーーなぜ、このようなお墓が増えているのでしょうか?
堀内さん:大きく3つの理由があると思います。
まず挙げられるのは、ライフスタイルの変化です。昔は亡くなるまで生まれた場所で暮らす方が多かったですが、時代が進むにつれ、人生を通じて複数の場所で暮らす方が増加。今では生涯の累計引っ越し回数は50代までと60代以降で傾向が極端に分かれており、50代以下の方から引っ越し経験が増えているというデータもあります。
つまり、現在住んでいる場所から離れた場所にあるお墓を管理するのが大変になり、「先祖代々のお墓」という考えだけでなく「個人のお墓」という考えも生まれるようになったわけです。
ふたつめが、経済的な理由です。近年、お墓を含む宗教儀礼そのものが形骸化してきていることが指摘され、「よくわからないものにお金を多くかけたくない」という消費者の心理が働いています。お墓の値段の主な構成要素は土地代と墓石の費用です。一概には言えませんが、樹木葬は一般的なお墓と比べて使用する土地の面積や石の体積が減るため、比較的安価となる傾向があります。
そしてみっつめに、女性からの評価が高いという点があります。
樹木葬を買うときには、生前に夫婦で探すパターンと、パートナーを亡くしてから購入するパターンがあります。前者では女性が探したものを男性が契約するケースが多く、後者では女性の方が平均年齢も長いことから、購入する方のほとんどが女性です。樹木葬は一般的なお墓の持つ無機質さや怖さのない自然に囲まれた形態なので、情緒的な価値を感じやすい女性が購入することが多いようです。また、季節ごとに色々なお花が咲くように設計されている樹木葬もあり、そのような点を評価される方も沢山いらっしゃいます。
ちなみに弊社(アンカレッジ)では、こうしたニーズに答えるべく、故・エリザベス女王から“緑の魔術師”と称された、世界的庭園デザイナーの石原和幸氏に樹木葬の植栽デザインを監修いただいております。
ーー樹木葬を選択するにあたり、気をつけるべきポイントは?
ケースバイケースですが、一般的に男性の方が既存のお墓のイメージを強く持っている傾向があり、デザインなどを夫婦間で話し合う方は多いです。「樹木葬なんて」というような考えの方も一昔前はいらっしゃいましたが、樹木葬という言葉が広まるとともに、受け入れられることが増えてきた印象です。
とはいえ夫婦間だけでなく、ご家族や親族間、お寺との間でトラブルになる可能性もあります。ご家族に相談せず遠く離れた地にお墓を購入してしまい、誰がどうやってケアをしていくのかということで揉めたり、お寺にお墓がすでにあるのに別に購入することを快く思わないお寺もあるでしょう。しかし、そうしたトラブルはメディアでおもしろおかしく大げさに取り上げられている部分もありますので、そこまで過敏にならずにいて大丈夫でしょう。大切なのは、そうしたことも含めて、早い段階でご家族や親族を含めてきちんと話し合うことだと思いますね。
ーー本日はお話ありがとうございました。
樹木葬や他の埋葬方法なども増えてきている昨今、自身の意思も重要ですが、まず大切なのは事前の話し合いです。みなさんもぜひ、これを機にご家族で話をしてみてはいかがでしょうか。
TEXT:市川岳
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「人生を変える寺社巡り」がテーマの寺社旅研究家。株式会社寺社旅・代表取締役社長。 宿坊研究会・縁結び神社研究会・お守り研究会を運営し、参加者1000人を越える寺社旅サークルの主宰や複数企業の顧問、仏前結婚式盛り上げ企画、お寺の漫画図書館などをプロデュース。寺社好き男女の縁結び企画「寺社コン」では500人以上を結婚に導く。 宿坊研究会はAll Aboutの「スーパーおすすめサイト大賞」で審査員特別賞を受賞。日蓮宗のお寺活用アイディアコンペでは、様々な寺社を活性化させた実績を買われて審査員を務める。また東本願寺・西本願寺・増上寺・池上本門寺などの各宗派本山、北海道から九州までのお寺や様々な企業、団体などでも講演を実施。寺院コンサルタントとしても活動中。 著書に『宿坊に泊まる(小学館)』『お寺に泊まろう(ブックマン社)』『こころ美しく京のお寺で修行体験(淡交社)』『恋に効く! えんむすびお守りと名所(山と溪谷社)』など。