- ケア
- 介護
- 看取り
本人の意思が主体。将来の変化に向けた取り組み 「ACP」を知っていますか?/後編
「ACP」普及のカギを握る、日本人の死生観
日本国内の医療や介護の現場でも、徐々に広がりをみせる「ACP/アドバンス・ケア・プランニング」について、社会福祉法人蓬莱会「特別養護老人ホームケアプラザさがみはら」の施設長を務める大塚 小百合さんをインタビュー。本企画の前編記事では「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」の概要についてご紹介してきました。
今後病院以外での終焉という選択肢を拡充すべく進めてられている「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」の普及。大塚さんの施設でもすでに積極的に取り入れられており、ご本人やご家族、職員の方との話し合いや、普及のための説明会なども実施しているそうです。ただ、一般的には「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」の過程で触れなければならない最期についての話題が、腫れ物に触るような扱いを受けているのが実態。
この点についても大塚さんは、日本は死生観に対して考える機会が他国と比較して少ないことも起因すると指摘します。
「例えば欧米諸国では、学校などで死生観について学ぶ授業があったり、それぞれが自身の宗教の信仰を通じて死生観について考える機会にも恵まれています。対して日本は死を忌み嫌う文化が根付いており、自身や身内が亡くなる話を家族の前ですると『縁起でもない!』と怒られたりもしますよね。また、日本人が老いや老衰の過程を十分に理解できていない理由のひとつに、核家族が多いことが考えられます。おじいちゃんやおばあちゃんと同居されている方も今では少なく、自分の周りに高齢者・超高齢者がいないため、“老いる”ということがどういうことなのか分からない。だから、実際に人が亡くなる場面に立ち会った方も少なく、人が死ぬということに対するリアリティの欠如がある。知らないが故に自然死の選択ができず、何が起こるか分からないという恐怖感に駆られがちです」
「死」という未知に対する知識を広めるために
現在、大塚さんの施設ではアドバンス・ケア・プランニング(ACP)をはじめ、「看取りケア」と呼ばれる施設での最期をサポートする体制も充実していますが、以前は職員の方のなかにも「死を看取るのが怖い」と話す方も多くいたそうです。
「なぜ怖いのかを聞くと、老衰で自然に亡くなるということが“分からない”からなんです。見たこともないし、立ち会ったこともないですから、無理もありません。そうしたリアリティの欠如、つまり未知への恐怖は誰にでも潜在的にあるものですが、私たちはそうした未知に対する知識を、ご家族の方を含め世間一般に広く持ってもらいたいと考えています。そしてその過程が『アドバンス・ケア・プランニング(ACP)』の普及につながっていくと思っています」
「医療を施す=その人にとってベストな選択、という考え方が浸透し過ぎているのでは」と、疑問を呈す大塚さん。良かれと思ってした選択が、本人をかえって苦しめる結果になる場合もあるということを知ってもらいたいとも。
「私たちの施設では、ご家族に対していきなり具体的なご説明をする前に、まず一般論としての『アドバンス・ケア・プランニング(ACP)』を知っていただくための看取り説明会を行なっています。実情をご説明した上で、『だからアドバンス・ケア・プランニング(ACP)が大切なんだ』ということをご理解いただくことで、死に対する抵抗感を軽減し、少しでも受け入れやすい気持ちになっていただければという考えからです。こうした一連のケアを施設では“心残りゼロケア”と言っているのですが、私たち専門職の人間が積極的に『アドバンス・ケア・プランニング(ACP)』をはじめとする知識や考え方、そして本人が理想とする終焉を迎えるのに何を重視すべきなのかをしっかりと伝えることで、ご本人はもとより、家族の方も自分たちの選択にはじめて納得ができるのだと思っています。本人の考え方を尊重した考え方、選択こそが、『アドバンス・ケア・プランニング(ACP)』における要なのだと思っています」
参考記事:本人の意思が主体。将来の変化に向けた取り組み 「ACP」を知っていますか?/前編
TEXT:中澤範龍