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終活は防災意識のようなもの。終わりを見据えて今を生きる、てんさんの死生観

さまざまな経験を通じて自身の生活を見直しはじめた、てんさん。うつ休職などをきっかけに30代、40代における終活を発信しているそう。詳しくお話をお伺いしました。

ーー終活について色いろと活動されているとのことですが、どのようなことをしているのでしょうか?

自分自身や家族のためにやっていることと、「終活が気になるけど、いつから何をしたらいいかわからない」という方への情報発信の両方をやっています。
自分や家族の終活としては、例えば、実家の片付けをしたり、銀行口座や保険、お墓のことなど「もしも」に備えて両親と話したりしました。また、できるだけ一緒に出かけたりご飯を食べたりすることも終活の一環と捉えています。

自分自身がエンディングノートの書き方で困った経験から、エンディングノート認定講師の資格を取り、今は終活ガイドの資格取得に向けて勉強しています。興味はあるけど1人では取り組みにくいという方は多いと思うので、終活に対する考えや学んだことをSNS・ブログで発信し、今後はセミナーなどのイベントも開催予定です。(てんさんのTwitterアカウントはこちら

ーー終活を始めるきっかけは何だったのでしょうか?

いくつかきっかけはありますが、そのうちのひとつに、幼少期から一緒に住んでいた祖母との死別があります。3年ほど前のことで、私にとってはじめて身近な人が亡くなる経験でした。

祖母と私は就職するまで一緒に暮らしていましたが、就職してから10年ほどは遠く離れて暮らしていました。仕事も忙しくほとんど会えないような状況のなか、新型コロナが拡大。祖母は畑仕事をするなどずっと働いていましたが、膵臓がんを患い、起き上がることも難しくなりました。両親から連絡があり、一度LINEのビデオ通話をしました。そのときの弱った姿や、か細い声で「おばあちゃんもがんばるからね」と言ってくれた様子を思い出すと今でも胸が苦しくなります。

そして、祖母が亡くなったとの連絡がありました。本当はお葬式に参列したかったのですが、家族と話した結果、お葬式への参列を自粛しました。両親には隠していましたが、自分自身はうつで休職中、緊急事態宣言下での出来事でした。しばらくしてから実家に帰ってお線香をあげましたが、本当に死んでしまったのだろうかと、いまだに実感がありません。「おかえり」とまたひょっこり顔を出してくれるんじゃないか、なんて思ったりもします。

仕事が大好きでやりがいを感じながら働いていた自分が、抑うつ状態になり働けなくなったこと、祖母との死別、コロナ、海外での戦争。あらゆることが重なり、生きるとか死ぬということを真剣に考えるようになりました。いつ何が起きてもおかしくないし、今生きていられることは当たり前じゃないんだと痛感しました。そして、未婚で子どももいない自分自身がもし死んだら…「まずは身の周りを整理しよう」と思ったことが終活を始めるきっかけでした。

ーーそこからどのようにご自身で発信していこうと思われたのでしょうか?

今まではメディアの情報を受け取るという、いわば受け身の状態で、自分から何かを世の中に発信することはしていませんでした。しかし、うつ療養中に自分の経験も誰かの役に立てるかもしれないと感じ、以前から気になっていたSNSやブログで体験談を発信をしてみました。すると、思った以上に反響がありました。整理収納アドバイザーの資格を学んで片付けに関して発信したり、一緒にブログを頑張ろうと励まし合う仲間ができたり、自分の発信に多くの人が共感してくれるなど、うれしい出来事がたくさんありました。

終活に関しては日常生活の中で気軽にできる話題ではないものの、なんとなく大事であると気づいている、気になっている人は少なくないと感じました。センシティブで専門知識も必要なことだからこそ、親しみをもってわかりやすく情報発信したいと思っています。

てんさんの終活用Twitterアカウントから引用

ーー今後はどのようにしていきたいと考えていますか?

大げさかもしれませんが、終活に対するイメージを変えていきたいという思いがあります。先日、アンドフォーアスさんが開催していたイベントでも、「死について考えることは良いはずなのに、縁起でもないと思われてしまいがち」という話がありました。
でも、死後のことを考えるだけが終活ではありません。いつか必ず訪れる最期の瞬間までどう生きたいか。終活は「今とこれからの人生を整える前向きな活動」だと捉えています。

自分自身が長年経営に携わる仕事をしていた影響かもしれませんが、ゴールを見据えて、いま何をすべきかを考える逆算思考が人生にも通じます。
と言っても、いまいちピンとこない方もいると思いますが、”防災の延長”で終活を考えるのもいいと思います。

万が一のときに備えて、防災グッズを準備している人は多いですよね。同じように、終活も自分に訪れる最期のときを見据えて備えることだと捉えてみてはいかがでしょうか。

今は50代、60代と、ある程度年齢を重ねてから終活をするというイメージがあると思いますが、始めるのに早すぎるということはありません。いつ最期の瞬間が訪れるかはわかりません。
終活は気力も体力も必要なので、若いうちから取り組むことでより人生が充実していくのではないでしょうか。悲観的な意味ではなく、自分も大切な人も、いつかは死にます。それは紛れもない「事実」なので、目を背けず向き合った方がいいのではないかと思います。生きていることが当たり前ではないから感謝して生きることができます。

例えば、身の回りにある不要なものを整理して、暮らしの棚卸しをするだけでも、広い意味では立派な終活だと思います。そうした小さなステップでもいいので、自分の発信が行動するきっかけになれば嬉しいなと思います。

ーーすてきな取り組みですね。ちなみにてんさんは、人が死んだらどうなると考えていますか?

正直、死んだらどうなるかは分からないので表現しにくいですね。今感じている気持ちや考えていることはどこかへ行ってしまうと思いますが、だからといって仮に生まれ変わったとしても、前世の感情などは残っていないと思うので、そういう意味で「無」だと思います。生まれ変わる可能性はあるけれど、引き継ぐものではないというイメージです。
だからこそ、今のこの人生を生ききりたいと思います。もしかしたら来世があるかもしれないけれど、今思っていることは今しかないと思うので。

小さい頃は死が遠いものだったので、あまり考えないようにしていました。しかし最近は、順番なんて関係ないと思っています。生まれたばかりの赤ちゃんだろうが、おばあちゃんだろうが、いつ死を迎えるか分からないです。そうした不安の中で、どうやって心の平穏を保つかというと、今できることを一生懸命やること以外にないのではないでしょうか。

ーーとても興味深いです。てんさんの死生観・人生観へ影響を与えた作品は何かありますか?

漫画『キングダム』です。

終活とは直接関係ありませんが(笑)、紀元前の中国春秋戦国時代のお話で、中華統一を目指して、名もなき下僕の少年が大将軍になるまでのストーリーです。

主人公がたくさんの人と出会い、別れていくのですが、その中に実生活に役立つ知恵があると思います。例えば、組織やチームをつくる上で、どう戦略を練って動いていくのか考えさせられます。経営や仕事に通じる部分があり、リーダーシップ論などが学べます。また、主人公の成長していく姿を見ると、自分が奮い立たされて元気が出ます。

「『キングダム』で学ぶ 乱世のリーダーシップ 」という本が出るくらいなので、ビジネスパーソンにこそぜひ読んでもらいたい一冊です。

ーー死生観や人生観にとても達観した考え方を持っていらっしゃることが伺えます。そんなてんさんが死ぬまでにやりたいことは何かありますか?

生きている間に会いたい人がいます。それは前職の社長です。

私の人生において影響を与えた人ベスト3に入る人です。当時は社長の直下部署で働いており、仕事の楽しさや経営の難しさ、人としてのあり方など、色いろな価値観に対して影響を受けました。辞めるときに、きちんと話ができなかったことが心残りです。4年くらい連絡を取っていませんが、今年のうちに会いに行き、今の頑張っている姿を見せれたらと思います。

行きたい場所としては、日本全国のお城へ行ってみたいです。
海外に興味がないわけではないのですが、飛行機が苦手だし衛生面なども気になるので、現実的にはあまり行きたいと感じません。
それよりも、日本国内のお城に魅力を感じます。お城を見る際は「昔こんなものを作る技術があったんだ」「敵が来たらここで仕掛けを使うんだ」というように想像することで、日常から離れて違う時代にトリップしたような感覚が味わえます。

そして最期に食べたいものを挙げるとするなら、母親のけんちん汁が食べたいです。
うちは小さい頃から朝は魚と味噌汁が出るような、母親が料理をしっかりと作ってくれる家庭でした。母は当たり前にやっていましたが、今思えばすごく有難いことだったと思います。母親の料理で好きなものは色いろありますが、その中でも特に好きですね。実家に帰るときに「何食べたい?」と聞かれるたびに「けんちん汁」と答えています。

ーー本日はお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
  インタビューはいかがでしたか?

自分の言葉で伝えることによって、より自分の考えがクリアになるので、ありがたい機会でした。
直近で行動できることは早めにやってみたいと思います。ありがとうございました。

Illustration: banbino_e

インタビュアー

市川岳

市川岳

アンドフォーアス株式会社

国際基督教大学教養学部アーツサイエンス学科哲学専攻卒業後、葬儀社(むすびす(株)旧:アーバンフューネスコーポレーション)へ入社。エンディングプランナーとして、年間約200家族との打合せ・葬儀を執り行うとともに、死生学カフェや死の体験旅行など様々なイベント企画を通じて「死へのタブー視」と向き合っている。 現在は上智大学大学院実践宗教学研究科死生学専攻の博士課程前期1年目で、死とテクノロジーが合わさった「デステック」における倫理的問題のアセスメントを中心に研究を進めている。

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